役人は玉虫色の表現が好きだという。そう断言するだけの材料を藤吉は持ち合わせないが(思いつくのは「前向きに検討する」くらいだし)、それにたたみかけて、あいまいな表現にしておくのは、単にやるべきことをサボタージュするためだけではなく、さらにはあいまいに表現してある部分の解釈についてフリーハンドを確保しておくためでもあるのだと聞くと、あぁなるほどなあと予断をもって納得してしまう。アーカイブズの機能を、立法の意思決定にもとづいて行政によってなされたことの事後評価のための材料の整備という観点から考え、三権分立を、立法(legislation)=行政がやるべきことの(法制化というかたちでの)確定、行政(administration)=立法によって(法律というかたちで)確定されたやるべきことの遂行、司法(jurisdiction)=行政の法律に対する、法律の憲法に対する抵触性の審査、というふうに役割分担させたとき(このへんはちょいと前にまとめたことがある)、立法にも司法にも意思決定/価値判断の要素があるのに、行政にはない、立法に言われたことを粛々とやるだけのように見えてしまう。机上の整理としてはこれでいいのかも知れないが(イカンかな)、こりゃあんまり現実離れしすぎであろうというすわりの悪さを感じていた。だいたい、法(で定められた任務)の遂行にあたって役人に意志がないわけないじゃないかという感覚はぬぐえない(全体として見れば)。
 で、そのへんのもやもやが、過日のアメリカ議会訪問でちょいと晴れた。一般旅行者向けの議会見学ツアーに参加してガイドさんに館内を案内してもらったのだが、案内の前に大きなホールに集められ、そこでアメリカ建国の歴史とからめて議会の歴史を語るショートムービーを見せてもらった。そのナレーションで使われていたのが、立法府である議会の legislature に対して行政府のことは administration ではなく Presidency、大統領であること。こう言われると意志の力満々という感じで、ああ、そういうことかとなる(「である」ことは「する」こと!)。…ちなみに、数日後にお会いしたUCバークレーのご学友によると、行政は administration よりも executive という方が適切とのこと。エグゼクティブですかっ! これまた意志のにおいプンプン。
 立法に定められた法律に粛々と従って業務遂行というよりも、玉虫色に解釈できる法律を立法につくらせて、その解釈にフリーハンドを得て自分たちの信じる「課題」を進めるというのが、優れたエグゼクティブなのかも知れない。
 まあ、あれかな。「期末試験の成績50%、授業での討論参加への積極性50%で評価する」なんて時の、いかようにも解釈できる「積極性」という語句によって「救済」措置をとりやすくしておく、みたいなのとムジナくんなのかも知れない。もって他山の石とせよ、でござる。
 アメリカ議会(ワシントンDC)の見学者受付カウンター。ここで名刺大のシールをもらい、館内にいるあいだ服の胸のあたりに貼りつけておく。入館するまでのセキュリティチェックは空港並みに厳しく立入禁止のエリアもあるが、立入自由のところはすこぶるオープン。写真も撮りホーダイ。

 長らく日本経済担当特派員だったという記者がいうには「日本の企業統治には利害関係者(シェアホルダー)に経営情報を開示するという伝統がない。むしろ開示せずにすますという伝統がある」とBBCオンラインラジオにて。ほらほらー、グローバルスタンダードの都合のいいつまみ食いやってるから敵失とばかりにいいように言われるでしょー。頑張れ、ニッポン。…ケイマン諸島といえばタックスヘイブン(「連中」の作法(やり口といってもよい)を知るのにいい本です)としてその名を知られる一般には無名の島。いいカモになっちゃったのかもにゃー。