科研の研究会で国立国語研究所へ。9月下旬に何人かでオーストラリアのアーカイブズ(歴史資料保存利用機関)の調査に出向くための事前研究会。藤吉はヴィクトリア州の電子記録管理保存にかかわる事項を調査して報告。これまでは寺院文書をはじめとする、いわゆる「歴史的」な古文書類データの電子化に携わり、これを「人々の共有財産としての歴史資料の、人々による具体的な共有のあり方」という観点から検討を進めてきたが、今回のオーストラリアでの取り組みはよりアクチュアルなものとなる。行政機関における意思決定のしくみが電子システム(要はワープロをはじめとするコンピュータベースの記録)の中にどのように組み込まれているかを調査研究するというもの。
 たとえば身近な例として、市町村が「交通信号の設置されていないいくつかの交差点に、どのように信号を整備していくか」という課題を考えてみよう。当然(予算の都合もあるから)思い立ったその年度のうちに、すべての箇所に一気に全部信号を設置するわけにはいかない。とすれば未設置箇所の中に優先順位をつけ、今年度はこことここ、来年度はあそことあそこ…のように順番に設置していくことになる。とすれば、その優先順位のつけかたに注目だ。ここではなく今年度あそこの交差点に先に信号を設置するのはなぜか。それには理由があるはずだ。その周辺に通学路があるかどうか、お年寄りが多いかどうか、交通量はどうか…信号設置の優先順位のつけ方をみることからその市町村の「安全」にかかわる意識をうかがうことが可能になる。「それがそのように決まったのには、そのような背景がある」。これが巷間いわれる行政の挙証説明責任(アカウンタビリティ)の重要なポイントのひとつになる。
 加えてそれがどのような経路で決められていったか、どこで起案され、最終的にどこで決済されたのかを示すことによって、それが正当な手続きを経ての決定だということが証明される。私たちが普段利用する電子メールには、自動的に誰が誰に向けていつ発信したものかというデータが記録される(これをメールの内容データそのものではないという意味で「メタデータ」と呼ぶ。メールのヘッダに表示されるされないは別として)。これと同様のしくみを、組織の意思決定システムの中に組み込み、後日その決定の正当性(遵法性と呼びかえてもよい)と適切性を立証できるようにしておこうというのがヴィクトリア州政府の電子記録にかかわる取り組みであり、これを調査研究するというのが今回の調査旅行で藤吉に割り当てられた分担。
 大学という組織もさまざまな意思決定に基づき、さまざまな業務を遂行しているが、それを学内のみならず学外から関心を寄せてくれる人々(というかステークホルダーと乱暴に呼んでしまってもいいが)に対して示す準備をしておくこと。これは今後の私立大学の運営にとってもかなり重要な位置を占めてくるはず。この意味で、今回の調査旅行は多分に「趣味と実益」を兼ねた、すこぶる有益なものとなりそうです。
 もちろん「そんなん言うたって、政治家のゴリ押しで(え? ツルのひと声?)新幹線の駅の設置場所が決まるような国で、そんなことが通じるもんか!」と反問することは、十分に可能かも知れませんが。